ああ、仕事をしよう。仕事を。
それが精神衛生に一番良い。
諦めの境地で一つ小さなため息を吐き、一般事務職の女の子たちが賑やかに退社していく騒めきを背中越しに聞きながら、頭を仕事モードに切り替える。
『さぁて、今日は柱の詳細図は書き上げないとなぁ』などと考えつつ、設計図をパラパラとめくっていたら、課長のデスクの内線電話が高らかに鳴り響き、ドキリと鼓動が跳ね上がった。
「はい。工務課、谷田部です。……は?」
電話に出た課長の眉根に、すうっと浅い縦じわがよる。
「ずいぶんと急ですね……はい、ええ」
何やら要領を得ないような訝しげな表情で相槌を打っていた課長は最後に「分かりました、すぐ伺います」と言って電話を切り、しばし何かを考えるように受話器を睨んだ。
その表情はどこか怒っているようでもあり、呆れているようにも見える微妙な表情で、訳もなく胸がドキドキしてしまう。
何? 何か悪い知らせ?
息をつめて見つめていると、不意に課長が顔を上げて視線がかち合った。
「高橋さん」
「は、はい?」
「社長が、お呼びだ」
「……は?」
「俺と君、二人を、お呼びだそうだ」
はい?
今まで、社長から直々に呼び出しをされたことは一度もない。それに、課長と一緒に呼び出される心当たりも皆無だ。
その時、なぜか背筋に走ったのは、『嫌な予感』。
その予感は、見事に的中してしまった。