「え~と、工務課で一番の古株は、高橋君だったな。谷田部君が仕事に慣れるまでは、しばらく君が補佐してくれたまえ」
心ここにあらずな私の耳に、実にご機嫌さんな社長の声が届く。
え……? 工務課の、古株の高橋?
社長の話なんぞハナから聞いていない私は、その言葉の意味することが脳細胞に到達するのに、優に三秒はかかったかもしれない。
ぴきぴきぴきっと、谷田部課長の隣に立つ恰幅の良い社長の、これまた福々しい顔に視線を走らせる。
「じゃあそう言うことでよろしく頼むよ、高橋君」
にこにこと営業スマイル全開な社長の笑みに反射的に引きつり笑いを返しながら、私はその言葉の意味を咀嚼した。
――谷田部課長の補佐?
って、私がっ!?
「それでは諸君、今日も一日頑張ってくれたまえ!」
――な、な、なに!? 何が起こったの?
一瞬にして脳みそフリーズ状態に陥った私のことなどお構いなしに、その社長の一言で朝礼は終了。
ザワザワとした囁き声を残して、皆めいめい自分の部署に散っていく。
その人波に揉まれながら、いきなり社長に名指しされて脳みそとっちらかりな私は、動くことも出来ずに言葉もなくその場に固まっていた。