「おはようございまーす」
更衣室で一緒になった同じ工務課の同僚数人と一緒に、ワラワラと室内に足を踏み入れた時、すでに課長席には谷田部課長の姿があった。
それぞれあいさつを交わしながら、事務机と図面台がワンセットになった自分の席について行く。
工務課のメンバーは総勢で十二名いる。
男性は課長ともう一人の合計二人で、残りの十人はすべて女性だ。
女性陣は、一番若い子が高校出たてホヤホヤの十八歳。一番年上が私で二十八歳。
良く考えてみれば、男性陣にとってはハーレム状態かもしれない。
でも、それが災いしてか温和で優しい人柄が仇をなしたのか、前任の木村課長は持病の神経性胃炎が胃潰瘍へと悪化して、長期入院になってしまったのだ。
そのせいで、と言うかそのおかげで、谷田部課長が赴任してきたわけだけど。
それにしても、今更ながら、課長席の隣と言う自分の席が恨めしい。
表情に気持ちが出ないように気を付けて、「おはようございます……」と、引きつりながらもどうにか笑顔で挨拶をする。
「おはよう二人とも。土曜日は、せっかくの休みのところ、娘の遊び相手をさせてしまって悪かったね」
そう言って課長は、土曜の出会いが何でもなかったかのように、いつものニコニコスマイルを浮かべなさっている。
そう、その程度のこと。
私にとっては一大事でも、課長にとっては、自分が既婚者だということを部下に知られた所で、何の痛痒も感じないだろう。