幸せすぎる夢から覚めれば、そこには変えようがない残酷な現実があって。

 見ていた夢が幸せであればあるほど、胸の奥に深く穿たれた塞がりきらない傷口に、鈍い痛みが走る。

 午前六時。

 自室のベットの上。目覚まし時計のアラーム音で甘い夢から現実に引き戻された私は、ベッドから重い体を引きはがすように上体を起こした。

「痛っ……」

 頭にも重い痛みが走り、思わず両手の指先でコメカミをグリグリと揉みほぐす。

 寝不足でも寝過ぎでもないのに、頭の芯が重くて痛い。

 お酒を飲んだわけでもないのに,二日酔いした気分だ。

「なんで、こんな夢を見るかな……?」

 不意に、唇に温かい感触が甦ってきて、思わず右手で覆い隠した。

 そして込み上げる、笑いの衝動。

 何だか、おかしい。

 夢は心の奥底に潜む願望の現れだと以前何かの本で読んだけど、我ながら女々しいことこの上ない。

 今更だ。

 今更、過去の綺麗な思い出に心の拠り所を求めた所で、どうなるものでもない。

 それに、今日は月曜日。書き上げなければいけない図面も書類も山積みだし、手配待ちの部品や材料も残っている。やるべきことは山ほどあるのだ。

 新任の課長が行方不明だった元彼で、いつの間にか結婚して子持ち親父になっていたのを知ってショックを受けたからって、仕事は待ってはくれない。

 私だけに任されている仕事があるのだから、呆けてはいられない。

「しっかりしろ、高橋梓っ!」

 ペチン! と、両手で両頬を一叩きして、自分に気合を入れる。

 この際、スケジュールが詰まっていた方が、余計なことを考えずに済んでありがたかった。