「初めまして。今日から工務課の課長をさせて頂きます、 谷田部(やたべ)東悟( とうご)です」

 低音の、甘い声音――。

 彼の、落ち着いたトーンの声が耳に届いたその瞬間、体に電流が走った。

 それは、困惑。

『間違いない』と言う思いと、そんなことはあるはずがないと言う思いが、私の心の中で交錯する。

 ――こんな、声まで似ているなんてあるはずない。そう思うけど。

 でも確かに、その顔も姿もそして声までも、私の記憶の中の東悟、 (さかき)東悟(とうご)と寸分違わない。

 年月を経たぶん、若干昔よりは雰囲気に丸みを帯びているような気はする。でもやっぱり、似ている。

 正に、瓜二つ。

 ううん。そのものにしか見えない。

「東悟……?」

 本当に、東悟なの?

 でも、名字が違う――。

「ねぇ、梓センパイ。かなり良い線行ってるでしょ、実物の新課長! あの鋭い感じの目が素敵ですよね~。 声もセクシー、耳元で囁かれたいっ」

「ええ……そうね」

 ひそひそと、楽しげに耳打ちしてくる美加ちゃんの声に曖昧に相槌ちながらも、私の視線は、谷田部新課長に釘付のままだ。

 東悟の『本物』か。それともよく似た『偽物』か。

 その違いを見つけようと、私は必死に谷田部課長を見詰め……ううん、穴があくくらい凝視した。