免許を取って自分で車を運転しようとは思わないけど、こうして他人が運転する車の助手席に乗って『ドライブを楽しむ』、なんてこともできるようになった。
でもやはり、こんなふうに交通事故を連想させるような場面に遭遇すると、どうしても恐怖心が甦ってきてしまう。
これが、時と共に薄れはしても完全に消えることのない心の傷、『トラウマ』ってやつなのかもしれない。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
運転席から心配げな声と視線を向けられて、「平気です」と、ぶんぶん頭を振った。
いけない。
なんでも悪いほうに先読みしてオロオロするのが、私の悪い癖だ。
「工事でもしてるんでしょうか? こんな所で渋滞するなんて……」
私の問いに、先輩は「ああ、なんだ」と口の端を上げた。
「これは自然渋滞だよ」
「自然渋滞?」
工事や事故じゃないってこと?
先輩は、原因を知ってるのだろうか。
小首をかしげていると、先輩は茶目っ気たっぷりにウンウンとうなずいた。
「そう、世界一周の旅に出かける人たちの、順番待ちの渋滞だ」
「世界一周の旅?」
「そう、徒歩で行ける、世界一周の旅」
「徒歩で……?」
意味が分からずキョトンと目を丸めていると、車の列が流れ出した。
そして、間もなく到着したのは、先輩の言葉通りの正に『歩いて世界一周の旅』ができる場所だった。