「好きな人と食べるのが、一番のご馳走だな」
まるで私の心を読んだみたにサラリと、なんのてらいもなく先輩はドキリとするセリフを口にする。
「そ、そうですねっ」
『好きな人と』という言葉が、勝手に脳内でエコーで増幅され、カッと顔に血が上って思わず声が変な風に裏返った。
「ここはガキの頃両親と一緒に来て以来なんだけど、味はあの頃のまま変わらない気がするな」
そう言うと先輩は、遠い思い出を辿るように懐かしげに眼をすがめた。
その表情はとても楽しげで、ああ、きっと先輩は、温かい家庭で愛されて育った人なんだろうなぁと、見ていて幸せな気持ちになる。
ごの人を育てた人達ならば、きっと大らかで明るいご両親なのだろう。
家族と過ごした大切な思い出の場所に自分を連れてきてくれた、その事実が嬉しい。
「本当に、美味しかったです。ご馳走様でした」
「どういたしまして。あ、はい、ウーロン茶」
店の前の自動販売機で買ったペットボトル入りのウーロン茶を受け取り、お礼を言って一口口に含んだ。
油料理の後で、さっぱりして美味しい。
なんて、小さな幸せにひたっていたら、先輩が思いついたように話を振ってきた。
「あ、そうそう。カップルにまつわるこんなジンクス知ってる?」
「はい?」
ジンクスって、縁起担ぎとか言い伝えの、ジンクス?
なんだろう? と目を瞬かせて、もう一口ゴクゴクとウーロン茶を口に含んだ。
そのタイミングを見計らったように、満面の笑顔で爆弾発言は投下された。
「焼き肉を一緒に食べてるカップルはH済み」
ぶーーーっ!?
口に含んだウーロン茶が、勢いよく噴出したのは言うまでもない。
ゲホゲホとむせ返りながら涙目で視線を走らせると、爆弾発言投下犯はこの上もなく愉快そうに笑い声を上げている。
こ、この人は、私をからかって遊んでるだけに違いないっ!
私はこの時、先輩の中での自分の立ち位置を、なんとなく悟った。