こ、これはもしかして、『お手を拝借』、じゃなくって、『お手をどうぞ』ってやつだろうか?
物心がついてから『異性と手を繋ぐ』なんて、後にも先にも高校の文化祭でのフォークダンスくらいしか経験がない私には、このまま素直に手を差し出していいものか判断がつかない。
チラリと視線を上げると、『うん?』と屈託のない笑顔で首を傾げる手の持ち主に視線が捕まり、更に鼓動が早くなる。ピクリと上げかけた左手が、根性なしにも元の位置に戻っていく。
「ほら、いくぞ」
私のドンくさい反応に苛立つでもなく、穏やかなトーンの声が再び落とされる。
相変わらず手は差し出されたままで、私の手を無理に取ろとはしない。
待っているのだと、思った。
私が自分から手を差し出すのを、待っていてくれているのだと、そう思った。
自信満々でいつだって強引で、でもこういう時は私から行動するのをちゃんと待っていてくれる人なんだ、この人は。
それは意外で、とても嬉しい発見。
ここで頑張らなきゃ、女じゃないでしょ、私っ!
ギュッと両手を握り込み、自分に気合いを入れて、石化したんじゃないかと思うほど重い右腕をじりじりと上げる。
距離が詰まるほどに、激しさをます鼓動。
そして、大きな手のひらに触れた瞬間、緊張で冷たくなった指先がギュッと温もりに包まれた。
とたんに広がる、羞恥心と安堵感。
でもやはり恥ずかしさの方が先に立って、上気した顔を俯かせる。
「よくできました」
笑いを含んだ声と共に頭に降ってきたのは、空いた方の彼の左手。
まるで幼い子供にするようにポンポンと温かい手のひらで頭をなでられて、ますます私の顔はほてりまくった。