『少し歩く』と言うから、何となく移動手段は電車かバスでも使うのかと思っていたら、先輩は車で迎えに来ていた。
車には詳しくないからよく分からないけど、大きくも小さくもない私的には『普通なサイズ』の白い乗用車。
紳士然と助手席のドアをどうぞと開けられ恐縮しつつ乗り込んだ私は、『何か話さなきゃ』と思いながらも何を話して良いのか分からず、結局は何も言葉が出ずにカーラジオから聞こえてくるBGMを聞きながら、窓の外を眺めるともなしに見ていた。
飛び去るように流れていく町並みは、だんだんと都会からのんびりとした田舎の風景に変わっていく。
季節は、春と夏の狭間の六月も半ば。
視線の先には、抜けるような青空が広がっている。
その爽やかな空の下、夏を前にいっせいに葉を茂らせる木々の目にも鮮やかな緑のグランデーションが遠くに広がり、どこか自分の故郷を思い起こさせる懐かしい風景が、視界をゆるゆると過ぎていく。
いったい、どこに向かっているのだろう?
何となく北上しているのは分かるけど、まったく土地勘がない私には、どこを走っているのか見当もつかない。
チラリと、運転をしている先輩の横顔に伺うような視線を向けると、ご本人様は至極上機嫌そうにBGMに会わせてハミングなんかなさっていて、説明をしてくれそうな気配はない。
何かヘマをするんじゃないかとの緊張の極地で、ずっと体に力が入りっぱなしの私とは正反対に、先輩はなんだかとても楽しそう。
行先を聞いても良いよね?