「そのままで、OK」

「で、でもっ」

 掴まれた手首が、全神経が集まったみたいに脈打ち熱を帯びる。

「はい、戸締まりはちゃんとしてね。じゃあ、レッツゴー」

「え、あ、はいっ!」

 ――思えば、最初の出会いの時も、こんな感じだった気がする。

 いい年して水たまりですっころんで子供みたいにべそをかいていた私に、『何やってるんだよ』と『しっかりしろ』と発破をかけてくれた人。

 この、すがすがしいくらいに爽やかな強引さが、ちょっぴり羨ましい……。

 ああ、それにしても。

 これじゃまるで『市場に引き出される子牛』みたいじゃないか。

 脳内で『ドナドナ』の、どこかもの悲しいメロディーが鳴っている。

 かくして。

 ペアルックもどきを身に纏った私は、先輩の言われるままにドアに鍵を掛けた後。

 その大きな手にガッチリと、今度は左手首を掴まれたまま、引きずられるように我が家を後にした。