成績はいつもトップクラスで、ルックスも抜群。
わがM大工学部期待の星、榊東悟。
いくらフリーだからって、この人が本気で私をデートに誘うなんて、考えられない。
うん? と、ちょっと悪戯っぽい瞳で覗き込まれて、更に顔が上気する。
たぶん、今の私の顔はトマトと良い勝負のはず。
「で、でも……、どうして私なんですか?」
先輩に群がる女の子はいくらでもいるでしょうに。それこそ、選り取り見取りに。
「気になるから。高橋梓という女の子を、もっと知りたいと思うから、榊東悟という男をもっと知って貰いたいから、デートに誘っている。それじゃ理由にならないかな?」
ずるい。
いきなりそんな真面目な顔で言われたら、あしらう言葉が出てこないじゃない。
ダメだ、その気になったりしちゃダメ。
私は、こう言うのに慣れていない。
深入りしたら、きっと後戻り出来なくなってしまう。
そう、心の隅で本能が警鐘を鳴らしている。
だけど――、
「返事は? イエス、ノー?」
「……」
「イエス、オア、ノー?」
向けられる視線が、熱を帯びる。
ジリジリと夏の太陽に照らされ色づき始めたトマトは、どんどん赤みを増して完熟状態。
そうなれば、後は重力に引かれて地面に落ちるしかない。
「イ、イエス……」
それに。
私もこの人を、榊東悟と言う人を、もっと知りたい。
口から零れだした答えは、そんな隠しようがない本心の発露だった。