「……この人が、谷田部課長なの?」
谷田部って、名字が違う――。
アイツの訳がない。
「谷田部……、なんて言うの?」
思わず、声が震えてしまう。
「はい?」
意味が分からなかったのか、キョトンと目を丸める美加ちゃんに、私は同じ質問を繰り返した。
「課長の名前、谷田部、何?」
喉の奥に絡んだ声が掠れて、上手く出てこない。
「ああ……名前ですか」
美加ちゃんは、記憶の糸を辿るように眉根を寄せて『う~ん』と、空を睨んだ。
「え~と、確か、東に悟で、とう――とうご?」
「東悟……」
――同じ名前。
まさか……偶然よね。
世の中には、そっくりな人間は三人居るっていうし。
その似た人が、たまたま同じ名前だった。
そう、そうよ。
こんな所で、アイツに会うはずがないじゃない。
「正面は撮れなかっんですけど、横顔だけでも凄いイケメンでしょ。もろタイプですぅ~、あたし!」
内心、動揺しまっくっている私の様子には気づかず、美加ちゃんは無邪気にはしゃいでいる。
私はただ呆然と、その写真に写った男の横顔を見詰めていた――。