ザワザワと学生達の賑やかなお喋りをBGMに、大学の学食のテーブルの角っこで一人。

 まだ親しい友人が出来ない私はいつものごとく、文庫本片手に味気ない昼食を取っていた。

 本日のメニューは和風Bランチ。

 メインのおかずは鯖の味噌煮で、東北育ちの私には少し薄味で物足りない。

 お母さんの、鯖の味噌煮が食べたいなぁ……。

 あの、脳みそまで染みこみそうな甘じょっぱい味噌味。炊きたてのホカホカご飯で、食べたい。

 なんてホームシックに浸っていたら、ツカツカツカ――と近づいてくる軽快な足音が背後から響いてきて、私は反射的にギュッと身を強ばらせた。

 き、来たっ!

 この一直線に私に向かってくる自信満々の足音の主は、一人しかいない。

「ほら、また、眉間に縦じわが寄ってる! 知ってるか? そのシワは年と共に深くなるけど、絶対浅くはならないんだ」

「痛っ……」

 不意打ちでおでこに走った鋭い痛みに思わずうめき声を上げ、いきなりデコピン攻撃を仕掛けてきた犯人様を、じろりと冷たい視線を作って見上げた。

「知りません、そんなものっ」

 まだひりひりするおでこをナデナデしながら、左隣の席にどっかりと腰を下ろした良く見知った人物にふくれっ面を向ける。

 彼は、二学年上の(さかき) 東悟(とうご)

 数週間前、水たまりですっころんで往生していた私に、唯一救いの手を差し延べてくれた優しい先輩……で、終わるはずの人。

 なのに、何故かこうやって私を見つけては、『ちょっかい』をだしにくる不可解な人でもある。