「君たちに会うなんて、奇遇だな。女性陣二人で、ピクニック?」
ゆっくりと歩み寄ってきた谷田部課長は、憎らしいくらいに驚きの成分なんて微塵も感じさせない、いつものニコニコスマイルを浮かべて話しかけてきた。
「ホントですよね。まさか、ここで谷田部課長と会うなんて、ビックリですよ!」
固まったままの私には気付かず、楽しげに声を上げる美加ちゃんの傍らで、私は何者かに助けを求めるように宙に視線を彷徨わせた。
「課長、あの女の子は、もしかして?」
「ああ」
好奇心を含んだ声音で問う美加ちゃんに、谷田部課長は静かに頷く。
「真理、おいで」
課長に手招きされ、私達の所までトコトコと戻ってきた少女が放った言葉――。
「パパの、お友達?」
『パパ』、その単語に、脳内が一瞬にして漂白される。
私達と課長を見比べて、不思議そうに小首を傾げる少女の仕草を愛らしいと思う余裕もなく、私はただ、課長の顔に視線を這わせるしか出来ない。
私の視線の意味に気付いているのかいないのか。
課長はやはり表情を変えることはなく、ゆっくりとした動作で腰を屈めると、少女と自分の目線の高さを合わせて微かに口の端を上げた。
言葉で表すならば、それは正に『父親』の慈愛に満ちた顔だ。