「そ、そうなの?」

「そうなの」

 驚いて問えば、母は、靴を履きながらニコニコと答える。

 そう言えば私が着替えているとき、それに眠ってしまった後、お母さんと課長、どんな話をしたんだろう?

 かなーり気になる点だけど、藪を突っついて蛇を出したくはないので、「そっかー」と、曖昧に頷き返す。

 課長が来るなら、その時にそれとなく聞いてみよう。

「じゃあね。たまには、電話くらいよこしなさいよ。それと――」

「はい?」

 思ったことはストレートに言う性分の母が言い淀んだので、私は何事かと目を瞬かせる。

 向けられる眼差しは、とても優しい。

「イケメン課長さんに、よろしくね」

「うん。あのお母さん……」

「なに?」

 少し迷った後、今までは聞いてみたいと思いつつ聞けなかった問いを母にぶつけてみた。

「お母さんは、お父さんが亡くなった後、再婚したいって思ったことはなかったの?」

 少し驚いたように目を見張った母は、すぐに嬉しそうに口の端をあげた。

「そうねぇ。残念ながら、お父さん以上のイイ男に出会えなかったからね、再婚は考えなかったかな」

「もしかして、私に遠慮とかしていた?」

「ばかね。遠慮なんかするわけないでしょ。単にお母さんの中でお父さんがナンバーワンなだけよ。そして、オンリーワン。格好つけて言うなら『運命の人』ね」

 照れもせずに胸を張って誇らしげに言う母を驚きの眼差しで見つめる。

 前から『お父さんラブ』な人だとは思っていたけど、ここまではっきり言い切られると、聞いている方が照れてしまう。