「タクシー呼んだの? 車で送るのに……」
そこまで口にして、あっと、思い出した。
「車、会社に置きっぱなしだった」
「ふふふ。良いわよ。せっかくのお休みなんだから、ゆっくりなさい」
「うん……」
このままお友だちの結婚式と披露宴に出席した後、とんぼ返りで田舎の家に帰るという母を、慌ただしく玄関先まで見送る。
いきなりの出現、それも、『初めて課長と想いが通じ合ってラブラブモード全開なシーンに、ご登場!――には驚いたけど。
やっぱり、このまま又しばらく会えなくなってしまうのかと思うと、ちょっぴり寂しい気がするから不思議だ。
「次に会えるのは、お正月かしらね」
母も同じような気持ちでいるのか、向けられる笑顔は少し寂しそうだ。
「うん、お正月には帰れると思うから」
「楽しみにしてるわね」
その時はまた、母の手料理をたらふく食べさせてもらおう。
「あ、ご飯、ありがとう。美味しかった」
リップサービスではなく、心からそういうと、母は、意味ありげに『ふふふふ』と、含み笑った。
「たくさん作り置きして冷蔵庫に入っているから、課長さんにも食べさせてあげなさい。昨夜、『会社が終わってから、顔を出しますから』って言ってたから」
「えっ!?」
――ウソっ。
課長が、今夜来る!?
ここに!?
というか、いつの間に、そんな話を!?