「お父さんの若いころを思い出すわぁ」
「え、そうかな? あまり似てないと思うけど……」
「顔じゃなくて、イケメンなところが、似てるのよ」
うふふふと、母は、楽しそうに笑みを深める。
――なんだ、この話しの流れは?
「思いがけず、良い目の保養をしちゃったわー」
そうですか。
それは、なによりです。
でもその話題には、なるべく触れられたくないんです、ボロが出そうだから。
昨夜何があったのかとか突っ込まれたら、この母相手にシラを切り通す自信はない。
内心の動揺を悟られまいと、平静を装いホウレンソウのゴマ和えを黙々と口に運ぶ。
残念なことに、味がまったく分からない。
「そっか、そっかー。梓の上司は、イケメンさんなのかー」
上機嫌すぎる母の表情に、不穏な空気を察知した私が内心身構えたその時、
「で、谷田部さんとは、どういうお付き合いをしているのかな? じっくりと聞かせてもらおうかしら?」
母の爆弾発言は、天使のような満面の笑顔で投下された。
「うぐっ……」
喉に詰まりそうになるホウレンソウのゴマ和えをお味噌汁で流し込み、涙目になりながら視線を宙に彷徨わせる。