食卓の上には、母の言う通り『ご馳走』が並んでいた。

 炊き立てご飯と、豆腐とワカメのお味噌汁。

ホウレンソウのゴマ和えに、母特製の『サバの味噌煮』。

厚焼き玉子とお漬物。味噌煮の甘じょっぱい匂いが、食欲中枢を刺激する。

「いただきまーす」

 不平を鳴らして自己主張をしている腹の虫をなだめつつ、手を合わせて、ありがたくいただく。

 まずは、お味噌汁を一口。

 ごくりとすすれば、懐かしい優しい味が、口いっぱいに広がった。

――ああ、五臓六腑にしみわたるー。

 次につやつやと粒が立った炊き立てご飯を、その次に大好物のサバの味噌煮を、ぱくりと口に頬張る。

――ううっ。

 これよ、この味。

 この味が、どれほど恋しかったか。

 美味しいよーーっ!

 ああ、お袋の味は偉大なり。

 私では、同じに作っているはずなのに、この味がまだ出せないでいる。

「ふふっ。梓って、本当、美味しそうに食べるよねぇ。作り甲斐があるわぁ」

 対面に座りお箸を口に運んでいる母は、まんざらでもないように相好を崩す。

「だって、美味しいんだもの」

「それは、どうもありがとう」

 さて次は、これも大好物の、ホウレンソウのゴマ和えちゃんを。

 鼻歌交じりでるんるんと、パクリと口に含んだところで、母がニコニコと口を開いた。

「谷田部さんって、イケメンよねー」

「えっ?」

 いきなり出てきた課長の名前に、思わず箸が止まる。

「あ、うん。そうだね……」

――そういえば、昨夜色々見られてたかもしれないんだった。

 でも、何か見てたなら、お母さんならストレートに聞いてきそうだけど。

聞いてこないってことは、何も見てない可能性もある……よね?