「――と……ご」

『ほーら、もう一度』

 キジ猫さんの声に、よく知っている低音の声音がシンクロする。

「とう……ご」

『ほら、もう一度』

 キジ猫さんの声は消えて、はっきりと分かる、その声の主。

 ふっと、広い懐にすっぽりと包まれて、その温もりに身を預けている自分に気付く。

『梓、もう一度』

 耳元に落とされる、甘く優しい響き。

 こみ上げる熱い想いに押し出されるように、涙がぽろぽろと頬を伝う。

 私は、広い背にぎゅっと両腕を回して、再び言葉を紡ぐ。

「東悟……」

『うん』

「東悟が、好き」

『うん』

「誰よりも、大好き」

『――俺も、梓が好きだよ』

 甘い、甘い声が、耳朶を叩く。

『――大好きだ』

 そして落とされる、もっと甘いキスの雨。

 やっと、言えた安堵感。

 それを上回る想いが通じ合った幸福感に浸っていた私を、幸せな夢の底から引っ張り上げたのは、実にその場には不似合いな、よく知っている気がする女性の凛とした声。

「梓――」

――あれ?

 この声って、まさか。

「梓、いい加減に起きなさい!」

 威勢の良い声とともに肌掛け布団を引きはがされた私は、ぎょっと目を見開いた。