漆黒の闇の中、私は、必死で走っていた。
背後から迫ってくる、黒い大きな影に追い立てられながら、必死で走っていた。
――あれは、蛇だ。
私なんて、つるりと一飲みにしてしまうくらいに巨大な咢を持った、大蛇。
振り返ったら、その凶悪な目に捕まってしまったら、きっと動けなくなってしまう。
ハアハアと、息が上がる。
酸素を求めて、大きく喘ぐけど、ますます苦しさは増すばかり。
――どうして?
こんなに必死で走っているのに、走っているはずななのに。
ぜんぜん、身体が言うことを聞かない。
聞いてくれない。
まるで、泥の海をかき分けて歩いているみたいに、身体がどんどん動かなくなる。
とうとう動けなくなった私の右足に、ずるりと、何かがまとわりつく。
それは、螺旋を描くように、ズルズルと私の体を這いあがってくる。
ひやりとした感触と背筋を走る戦慄。
襲ってくる恐怖に、私は声にならない悲鳴を上げる。
――いや。
腰から鳩尾を通り、胸の真ん中をゆっくりと這い上がっていった『それ』は、あざけるような笑い声を上げながら、私の目の前で生臭い息を吐く。
――やだ。嫌だ。
あんたなんか、嫌い。大っ嫌い!
放せ、このこの、このっ!