――そうそう、ご心配なくよ、お母さん。
あなたの娘はあなたの教え通り、『自分の決めた道をしっかり歩いて』いますよー。
なんて、照れくさくてぜったい言葉にはできないけど……。
温かい飲み物と温かい眼差しと、温かい会話。
なんだか、ほっこりゆったり、とっても気持ちいい。
「ところで、谷田部さんは――」
「はい、一応――で、――なんです」
「まあ、そう――」
「――」
聞くともなしに聞いていた、母と課長の会話が、すうっと遠のく。
「あら、梓?」
母の驚いたような声がしたような、しないような。
「どうぞそのままで。私がベッドまで運びますよ」
「そうですか? それじゃあ、お願いしちゃいましょうか」
声は聞こえているのに、それが脳内で意味のある言葉に変換されない。
「今日は、だいぶ頑張ってくれたので、疲れたんでしょう。明日は有給扱いにしておきますので、ゆっくり休ませてあげて下さい」
穏やかな課長の声が、まるで子守唄のように聞こえる。
ただ、心地よいまどろみの中に、私はいた。
フワリと、身体が浮き上がった感覚とともに更に意識が遠ざかる。
ふわふわふわふわ、まるで雲の上に寝転んでいるみたいに、柔らかで温かい。
なんて、気持ちいいんだろう。
「返す返すも、すみませんねぇ、いい年をして手のかかる娘で。本当に、こんなのでいいんですか? 返品はききませんよ?」
なんだか、訳のわからないひどい言われようをしている気がしたけど、そこまでで。
スットンと、私の意識は、眠りの底に落っこちた。