「本当、家の娘はソコツ者で、恥ずかし限りです。会社でご迷惑をおかけしていなければいいのですが……」
「そんなことはないですよ」
何を和やかに談笑しているのかと思えば、肴は、私だった。
チラリと、何とも言えない視線を投げてよこすと、母は、トンと私の前に湯気の立ったマグカップを置いて、課長にニコやかに視線を戻す。
カップを手に取って中をのぞけば、コーヒーではなくホットココアの甘い匂いが鼻腔に届いた。
運転して帰る課長には眠気覚ましのホットコーヒーで、私には眠気を誘うホットココア。
言葉にしなくても察してくれる母の気づかいに、沈んでいた気持ちがわずかに浮上した。
両手でマグカップを包み込んで、甘い湯気をゆっくりと吸いこむ。
「いただきまーす」
会話のメインテーマではあるけど、蚊帳の外の私は独り言のように言って、そっと一口、口をつける。
ミルクがたっぷり入ったココアは、猫舌の私仕様の少し低めの飲み頃の温度になっていた。
――うん、美味しい。
さすがのマイ・マザー。
いい仕事しているねぇ。
現金なもので、少しだけ浮上していた気持ちは、美味しい飲み物のおかげで更に上昇していく。
そんな私の様子を見つめる課長の眼差しは、とても柔らくて優しい。
「そうですか、それなりに頑張っているんですね」
「はい、ご心配なく」