でも、赤く散った点が消えるはずもなく、こすった分だけ色が濃くなり、周りの皮膚を巻き込み被害拡大。

――ああ、もう。

 なんだか、泣きたい……。

 マフラーでもグルグル巻いて隠したいところだけど、今は夏まっさかり。

 ラフな部屋着の半袖Tシャツと七分丈の黒スパッツ姿に、首にスカーフを巻くわけにもいかない。

 ちょっと考えて、ファンデーションをパフでパタパタ塗り付けてみたけど、返って悪目立ちしている気がする。

 それじゃあと、首の後ろで一括りにしてある髪をほどいて前に引っ張って手ですかしてみても、それほど隠ぺい効果は期待できなさそうだ。

 メイクアップ師匠の美加ちゃんなら良い知恵を貸してくれそうだけど、こんな深夜に電話して聞くわけにもいかない。

――ううっ。

 このっ、このっ、このっ。

 蛇親父の、おたんこなすびっ!

 スットコドッコイのコンコンチキっ!

 悪戦苦闘しているうちに思ったよりも時間がかかってしまったようで、コンコン、と引き戸をノックして母が声をかけてきた。

「梓、飲み物入ったから、いらっしゃい」

「あ、……うん。今、行くよ」

 今は、これ以上どうしようもない。

 一つ、深いため息とともにモヤモヤとわだかまる気持ちを吐き出し、急いで着替えを済ませて課長の待つ居間へと足を向けた。

 首筋を隠すように、おろした髪を指先で引っ張りながら、母の隣で課長の向かい側にちょこんと正座する。