幸せで落ちる涙は、この上もなく甘い。
甘い言葉と、甘い香りと、甘い涙。
すべてが甘すぎて、心が、とろけだしそう。
どちらからともなく視線を合わせ、微笑み合う。
幸せって、たぶん、こんなこと。
私たちは、もう一度、唇を重ね合う。
はじめは、ついばむように、浅く。
やがて、互いの熱を分け合うように、深く。
離れないように抱きしめ合いながら、互いの存在を確かめるように、もっと、深く――。
でも、その濃密な甘い時は、突然終わりを告げた。
パチン――と、唐突に部屋の奥で上がったスイッチ音と、視界を埋め尽くした眩い光とともに。
そして、間を置かず上がったのは、実に間の抜けた寝ぼけ声。
「ふぁ~。ずいぶん遅いわねぇ。待ちくたびれて、先に寝てたわ……よ?」
のそのそと、眠たげな眼をこすりこすり居間から出てきた人物は、玄関先で抱き合う私と課長を見やり、きょとんと目を丸めた。
二人と一人の視線が、かち合う。
病室、病院のエレベーター、アパートの駐車場。
二度あることは、三度ある。
否、三度あることは、四度ある。
たぶん今日は、『告白だけはNGの日』なのかもしれない。
まさか部屋の中に誰かいるなんて想像だにしていなかった私と課長は、玄関で抱き合ったまま、全身ピキリと固まった。