熱く長い沈黙を破ったのは、やっと私の唇を解放してくれた、課長。

 情熱の余波を瞳に宿したまま、それでいて真摯な眼差しを課長は私に向ける。

 そこに、ふっと、柔らかな笑みが付加された。

「俺も、好きだよ」

 落とされたのは、この上もなく甘い響きをもったシンプルな愛の言葉。

『俺も、好きだよ』

 細胞にしみ込むように、その言葉をゆっくりとかみしめる。

――なんだか嬉しくて、嬉しすぎて、涙がでそう。

「……ち……ど」

「うん?」

「もう一度……、言って、下さい」

「よく聞こえなかった?」

「はい」

 こくりと頷けば、課長は愉快そうに眼を細める。

 そして私の耳元に唇を寄せ、再び、聞き間違えようのない甘い囁きを落とす。

「俺も、好きだよ。大好きだ」

 かみしめるように瞳を閉じれば、溢れ出た雫が熱い頬を滑り落ちた。

――私は、今日という日を忘れない。

 たとえこの先、何があったとしても。

 勇気を奮い起こして、想いを伝えたこと。

 その想いに最高の答えがもらえたこと。

 二人の気持ちが通じ合ったこの幸福な瞬間を、けっして、忘れない――。

「泣き虫だな、そんなに泣くと目が溶けちゃうぞ」

 課長は、幼子をあやすような穏やかな口調でそう言うと、私の頭を胸に抱きよせた。

 私は引き寄せられるままに、猫みたいに頬をその広い胸にすりよせる。

 落ちる涙は、温かい特大ハンカチに吸い込まれていく。

 フワリと鼻腔をくすぐる、ほのかな煙草の匂いがとても甘く感じた。