『昨日は、無事アパートに辿り着きましたか?』

 辿り着いたけど、おまけも付いてきました。なんて、言えるはずもない。

「ア、アハハ……、何とかね。醜態晒しちゃって、ゴメンね美加ちゃん」

『そんなこといいんですよ。それよりも、昨夜の谷田部課長、素敵でしたねー。 梓センパイを軽々とお姫様抱っこしちゃうんですもん。思わず萌えちゃいましたよ、私!』

「ええ、そうなの……」

 って、ええっ!?

 じゃあ、あの時のやたらとフワフワ心地良い感じは、『ソレ』かっ!?

 その絵面を想像して思わず冷や汗をタラリタラリと流す私の肩を、話題の主がツンツンとつついた。

『用事があるから、帰ります』

 ギクリと振り返る目の前には、そう書かれたメモ用紙が差し出された。

「え、あのっ!」

『センパイ?』

 ちょっと、待って、まだ聞きたいことがあるんです!

 美加ちゃんと通話中で声を出せずに、身振り手振りで引き止めようと慌てふためく私に、谷田部課長は微笑をたたえた表情で『じゃ』と軽く右手を上げると、ドアの向こうへ静かに姿を消した。