それは、一度目の軽く触れるような柔らかいキスじゃない。

 少し深さを増した唇の感触に、与えられる熱に、思考がゆっくりと漂白される。

 熱い――

 どこもかしこも熱くて、何も考えられない。

 ドキドキしすぎて、心臓が口から飛び出しそう。

 かくんと、膝が笑ってしまって、力が入らない。

 自分のものとは思えない甘いトーンの声が、鼻から抜けて薄闇に溶けていく。

 それが抗議の声なのか、熱に浮かされただけの甘い服従のサインなのか、自分でも分からない。

 とうとう立っていられなくなってしまった私は、すがりつくように課長の背に手を回し、ワイシャツの生地をギュっと握りしめた。

 それを合図のように、頬を包み込んでいた課長の右手が頬の稜線を辿るように滑り落ち首筋にたどり着く。

 反射的に引きそうになる顎を親指で持ち上げられ、残りの四指がうなじの髪に絡みついた。
 
 更に下に落ちた左手が、ふわふわと足元のおぼつかない体を支えるように、しっかりと腰に回されて。

 もう、逃げられない――。