これはもしかして、いつもの『からかいモード発動中』、なんだろうか?

 先刻、私も課長をからかって密かな喜びに浸るっていう、新たな発見をしたけど。

 確かに、課長がいつもと違う表情を見せてくれてすごく楽しくて、しあわせ―な気持ちになったけど。

 でも、でも、でもっ。

「ほら、もう一度」

「うううう……」

「ほーーら」

 もしかして、さっきの仕返しっ?

「ん?」

 って、目の焦点がぶれる寸前の近距離で視線をからめとられて、私は羞恥心で何も言えなくなる。

 身を引こうにも背中は壁だし、身体はほとんど密着状態だし、両頬は両手てばっちり包まれているし、動くに動けない。

 課長の、いじわる。いじめっ子!

 人の一世一代の勇気の結晶で、遊ばなくたっていいじゃないのっ。

 ぷうっと、子供みたいに思わず頬を膨らませたら、すかさず両手でふにふにっと引き伸ばされる。

 子供みたいなのは、私だけじゃない。

「なにほ、ふるんでふかっ」

 抗議の声を上げれば、私の両頬の肉を引き伸ばして遊んでいたいじめっ子は、こらえきれないように、クスクスと笑いだした。

「ほーら、もう一度」

――ええい、もう、知らないっ!

 こうなりゃ、ヤケだ!

 そんなに聞きたきゃ、言ってやるぅっ!

 大きく息を吸い込み、息を止めて。

「すっ……!?」

 勢いよく口から飛び出しかけた告白の言葉は、またも、寸前で封じ込められてしまった。