――ああ、やっと、言えた。

 一番最初にやってきたのは、そんな安堵感。

 でも、落ちた長すぎる沈黙が、つかのまの安堵感をたちまち不安へと変えていく。

 課長は、私を背中から抱きしめたまま何も語らない。

――やっぱり、私のこの想いは、課長には迷惑でしかないのかな?

 そう……、だよね。

 お義父さんが勧める婚約者候補がいるのに、告白されたって――

「もう一度」

 ネガティブ思考に落ち込みかけたとき、ボソリと背後から呟きが落ちてきて、私は、はっと顔を上げた。

「……え?」

――何が、もう一度?

 言葉の意味が分からず目を瞬かせていると、両腕の戒めが解かれ、ゆっくりと正面を向かせられた。

 不安にかられて見上げれば、怖いくらいの真剣な眼差しが、まっすぐ向けられている。

 それも、かなりの至近距離で。

 両肩に乗せられた、大きな手の感触。

 ほんのり伝わる、体温。

 頬が、熱い。

 ただでさえ早い鼓動は、暴走を始める。

 ほとんど密着状態で、どこが接しているのかいないのか、よくわからない。

 息遣いすら届く距離で、課長は低い呟きを落とした。

「よく聞こえなかった」

――え?

 よく、聞こえ……な?

「だから、もう一度、言ってくれないか」

 それはまるで懇願するような、そんなささやき声。

「え、は……」

――はいっ!?

 もう一度言えって、もう一度言えって。

 あの、一世一代の勇気を振り絞った大告白を、もう一度しろって?

 う、う、うそっ!?