な、な、なんだろう?

 何を言われるのか想像できない私は、動揺しまくった。

「……」

「課長?」

 沈黙に耐え切れなくなった私がおずおずと口を開けば、課長は、ふっと視線を和らげる。

 それは、いつもの柔らかい優しい笑顔。

 なのに、そこに内包されている『何か』が、私の心の奥をかき乱す。

「……いや。なんでもない。それだけだ」

――何を、言おうとしたの?

――何を、言えなかったの?

 笑顔の下に隠されてしまった、言葉の続きが知りたい。

 私を、どんなふうに思っているのか。

 課長の、本当の気持ちが知りたい。

 私の気持ちを、伝えたい。

 そう切望する一方で、諦めてしまっている自分がいた。

――知ったところで、どうなるの?

――伝えたところで、どうなるの?

 課長には、お義父さんが決めた婚約者候補がいるのに。

 私の想いはきっと、課長の負担にしかならないのに。

 波立つ感情を戒めるように、理性の欠片がチクリチクリと鋭い棘を突き刺していく。

 でも、その痛みを簡単に押し流してしまうような激しい感情の大波が、心の中で渦を巻く。

「ゆっくり、休んでくれ」

 淋しげな笑顔が、闇に溶ける優しい声が。

「それじゃ……な」

 ゆっくりと向けられた背中が、私の理性の残滓をきれいさっぱり吹き飛ばした。

「課長!」