そうしているうちにエレベーターは到着し、重い音を響かせて扉が開いた。
「ほら、乗った乗った」
「……」
妙に明るい声で言う課長に促され、エレベーターに乗りこむ。
自室があるのは、3階。
ボタンを押そうと伸ばした私の指先が、課長の指先と見事にバッティング。
「あっ」
意図せず触れた指先の少しひんやりとしした感触に、思わずビクリと手をひっこめる。
「すみませんっ」
もちろん、嫌だったからじゃない。
病院で手を繋いで歩いたときの感触と胸のドキドキが、一気に脳内を駆け巡ったからだ。
課長がどんな表情をしているのかなんて、確かめている余裕なんかまったくない。
――どうしてこんな些細なことで、こうもたやすく暴走し始めるんだこの心臓は。
チンと、静まり返った空間に、到着を知らせるベルの音が高らかに鳴り響く。
――今日は、やたらと聞いている気がするなぁ、この到着音。
これってけっこう耳に付くから、帰宅が深夜になるこういう時には少し困る。
というか、ご近所さんに迷惑かけたりしないか、すごく気が引ける。
前回は、一か月半前。
美加ちゃんの事件の時だった。その前は、課長の歓迎会の夜。
――たびたび深夜のご迷惑、本当にすみません……。