自問の声に、胸の奥で『ためらい』と言う名の小さなさざ波が生まれる。
生まれたその小さな波は、徐々に大きくなりながら心の奥深い所に、ざわざわと幾重もの波紋を描いていく。
心が、揺れる。
ゆらゆらゆらゆら、心が揺れる。
私は――
「うん?」
黙りこんでしまった私に向けられるのは、気遣わしげな瞳。
「あ……あの、課長」
開きかけたままの口から、想いが言葉になってあふれ出そうとしていた。
『好きです』
伝えたいのは、たった、それだけのこと。
言えるよね?
課長の答えがイエスでもノーでも、私は今、この気持ちを伝えたい。
――うん。
行け、梓!
勇気を振り絞り、真っ直ぐ視線を合わせて想いを言葉に変えるために、口をひらく。
「課長、私は――!?」
でも、ようやく紡いだ言葉は、突然照らし出された眩い光に遮られてしまった。
それは、駐車場に入ってきた車のヘッドライト。車は、私たちの所からさほど離れていない場所に滑り込んだ。
慌ただしく運転席のドアを開けて出てきたのは、なんとなく見覚えのある、サラリーマン風の中年男性。
たぶん、同じ階の住人だ。
真夜中の帰宅者は、私だけではなかったらしい。
通り過ぎざまに、チラリと好奇の視線を投げられ、あたふたと頭を下げ会釈をする。
それにしても、この笑えるくらいの間の悪さは、いったいなんなの?
そんなの、分かってる。
これは、意地悪な神様のせいでも悪戯好きの悪魔のせいでも、なんでもない。
時と場所柄を読めない私が悪い。
――ああ、私ってほんとに。
がっくりと肩の力が抜け落ちる。