「あの課長」
「うん?」
「そう言えば、風間さんって不思議な人ですよね。ぜんぜん探偵さんには見えないのに、『名探偵』ってかんじで、頼もしいっていうか」
「ああ」
課長は、少し、苦笑交じりの笑みを浮かべる。
「それ。『名探偵』だの『頼もしい』だのって、今度あいつに会っても、ぜったい言うなよ」
「え? どうしてですか?」
「調子に乗るから」
きっぱりと断言する課長の横顔は、どこか優しい。
「風間さんのこと、お好きなんですね」
こみ上げる笑いを隠し切れずに言うと、課長は不本意そうにむうっと眉根を寄せた。
「俺に、そっちの趣味はないぞ?」
「そういう意味じゃないですよ」
課長の反応に気を良くした私の、からかいモードが、むくむくと勢いを増す。
「『ああ、良いお友達なんだなぁ』『男の友情っていいなぁ』って、見ていて羨ましいって思ったので」
ニッコリ、満面の笑みで答えれば、いつもはあまり顔色を変える事が多くない課長の耳が、赤く染まっているのが見えた。
「……それ、言ってて、恥ずかしくないか?」
「はい、ぜんぜん」
――照れてる、照れてる。
思わずニヤニヤ笑いを浮かべていたら、「なんだよ?」と、不機嫌そうに、だけど不機嫌じゃないってわかる低い声が飛んでくる。
「何も、言ってませんよ?」
――やだ、どうしよう。
すっごく、楽しいんですけど。