「もともと太陽工業に来たのは、木村課長が復帰するまでの代打でいいからと、社長に頼まれたから――」

「そう、なんですか」

「というのは、建前(たてまえ)

――建前? ということは、裏に隠れた真実があるってこと?

「親父の……、死んだ親父の携わっていた、鉄骨建築の仕事をしてみたかった。それが、本音」

 そう言って、課長は少し照れたように笑う。

「谷田部の義父(ちち)も、谷田部のしがらみのない会社で働くのもいい社会勉強になるだろうからと、最長1年の約束で許可してくれたんだ。幸い、と言うかちょうど近くにお袋が入院している病院もあったしね」

――最長1年の期間限定……。

「そうだったんですか……」

「まあ、親父が経営していたのは、鉄工所というよりは『鍛冶屋(かじや)さん』といった方がいいような、小さな町工場だったけど、いつだって活気があふれていて――」

 在りし日の懐かしい風景に思いを馳せるように、課長は優しく目をすがめる。

「ただの鋼材が刻々と姿を変え確実に形作られていく、その過程を見ているのがガキの頃は好きだった」

 それが誇らしかったと、淡々と語るその表情から垣間見える亡き人への憧憬の想いに、胸が熱くなる。

 同じだ。

 私も、課長と同じ想いを、死んだ父に抱いている。

 大工だった、父。

 何の変哲もない木材が、その手で、命を吹き込まれていく。

 まるで魔法でもかけられたようなその様を、驚きと尊敬の眼差しで見つめていた、幼い日々。

 たぶんあの日々があるから、こうして今、私は、建築に携わる仕事に就いているのだと思う。