駐車場にとめてあったのは、ごく普通の白い乗用車。

 以前、ケガをした美加ちゃんを迎えに行ったときに乗せてもらったのと、同じ車だ。

 荷物を後部座席に乗せて、私は助手席におさまった。

 飾りっ気のない車内に、思わず頬が緩む。

 たぶん、乗ろうと思えばどんな高級車だって乗れるんだろうに。

 自分の力と経済力を見せつけるよううに、会社の前にリムジンを乗り付けたどこぞの蛇親父に、課長の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 あんな強欲野郎を選ばずに課長を後継者に選んだというなら、きっと谷田部総次郎と言う人は、人間の本質を見抜く目を持っているのだろう。

 なんだか、まだ見ぬその人の人となりが見えるようだ。

――そうよね。

 九年前、課長を救ってくれた人だもの。

 きっと、良い人に違いない。

 課長なら、どんな仕事も完璧にこなして立派な後継者になるんだろう。

 そうなったら、ますます遠い存在になっちゃうな……。

――って、あれ?

 不意に、あることに気付いてしまった私は、シートベルトを締める手を止めた。

 それは素朴な疑問だった。

「どうした?」

 日本屈指の大企業グループを統べる人物。

 その後継者として選ばれた人間。

 そんな人がなぜ、傘下企業でもない太陽工業の一課長をしているのだろう?

「え……っとあの、課長は、いずれご実家の事業を継がれるんですよね?」

 課長は、私の問いに痛い所を突かれたような渋面を作った。