「……着いたな」
「……着きましたね」
奪力したような課長の呟きに私も小さくうなずいて呟き返す。
『さあ着いたぜ、とっとと降りろ。本日の営業は終了だ!』、とばかりに、重い音を響かせてゆっくりとドアが開いた。
時間が深夜なだけに、1階のフロアも明かりが落とされていて人気はまったくない。
課長と私は、それぞれ足元に寂しげに転がっていた荷物を淡々と手にして、つかのまの密室から足を踏み出した。
何かを語るには、エレベーターの昇降時間は短かすぎたらしい。
うっかり、場所柄を失念していた。
そんなこと、冷静に考えれば分かりそうなものなのに。
テンパっていたのは、私だけじゃなかったみたいだ。
不意にこみ上げたのは、笑いの衝動。
――やだ、おかしい。
肩を並べて数メートル歩いたところで、二人同時に『プッ!』と、噴き出した。
笑っちゃだめだ。
そう思えば思うほど、笑いの衝動は抑えきれない。
――だ、だめだ。腹筋が、痛い。
「何、笑ってるんだ?」
ワザと怒ったような低めた声音に、チラリと視線を上げて目を合わせれば、とうのご本人様も相好を崩している。
「課長だって、笑ってるじゃないですか」
「笑ってない」
「笑ってます」
類は、友を呼ぶ?
不器用になってしまうのは、誰のせい?
良い年をした大人が二人して、何をやってるんだか。
くすくす笑いが、止まらない。
夜間の出入り口になっている救急用玄関を抜けて外へ出れば、そこは夜の帳に包まれていた。
シンと静まり返った広いアスファルト敷きの駐車場に、二人の歩く足音だけが響いている。
低い、どっしりとした足音は、課長。
やや高めの、軽い足音は、私。
同じリズムを刻むその響きは、とても優しく心に響く。