額に落ちかかる前髪が、眉間に刻まれた縦ジワを覆い隠す。

 自分の言葉の足らなさに、苛立ってるの?

 なんとなくそう理解したけど、肝心の課長が何を言いたいのかが想像できない。

「風間に言われるまでもなく、自分の言葉の足らなさは俺自身が一番よく分かっている――けど、そうそう昔みたいに、自分の気持ちだけをぶつけるわけにはいかないじゃないか」

『自分の気持ちだけをぶつける』

 その言葉に、ドキンと鼓動が大きな音を上げる。

「何を愚痴ってるんだ俺は。いい年をして、我ながら往生際が悪いな」

 苦笑を口の端に浮かべた課長は、気合いを入れるように自分の両頬をペちりと叩いた。

 そうしてもう一度、私の両肩に手をかける。

 向けられるのは真剣そのものの、深い色を湛えたまっすぐな瞳。

 その眼差しの強さに気おされて、私は、思わず一歩後ずさった。

 トンと、さして広くもないエレベーターの壁に背中が当たり、ビクリと身をすくませる。

「高橋さん」

「は、はいっ」

 低い声で名を呼ばれ、背筋がしゃきんと伸びる。

「じゃない……、梓」

 若干トーンダウンした声でなぜか苗字ではなく名前で呼び直されて、目を瞬かせた。

「は、はい?」

「梓、俺は――」

 課長が意を決したように口を開いたまさに、その瞬間。

 チーーーーンと物悲しい音を上げて、無情のベルが鳴った。