脳内で、『おててーつないでー』の、ノスタルジックなメロディが、リフレインしている。
――課長が、変。やっぱり、変だ。
その場の、雰囲気?
気まぐれ?
特に、意味はない?
それとも、何か、特別な意味があるの?
病室を出てエレベーターに向かうさして長くもない距離をよろよろとヨロメキ歩きながら、課長のこの奇行の理由を忙しなく考えてみる。
が、エスパーならぬ常人の私には、課長の心の中など見えるわけもなく。
エレベーターの前に着いたときに、これはさすがに本人に聞くしかない、と覚悟を決めて口を開いた。
「あの、課長……?」
呼びかけてはみたものの、なんと言葉を続ければいいのか分からず、繋がれた手にぎゅっと力を込める。
「うん?」
「手……」
「うん」
課長は、私の驚きも戸惑いもみんな分かっているように、穏やかな笑みを浮かべている。
その笑顔から答えを読み取ろうと必死で見つめるけど、私には分からない。
課長が何を考えているのか、ちゃんと言葉にしてくれなきゃ、わからない。
切ないような、やるせないような、もどかしいような。
複雑に絡み合った感情が、心の中をかき乱す。
ふと、風間さんが言い残していった課長へのアドバイスが、脳裏に浮かんだ。
『君は、昔っから、肝心な時に言葉が足りない』。
本当にそうだ。
でも、それは課長だけじゃない。
私も言葉が足りない。
想いを言葉にする、勇気が足りない。