――近づいたと思ったら、急に遠くなる。

 くっ付く瞬間に片方が裏返り、突然反発しあう磁石みたいだ。

 強引に引き寄せられたあげくに力技でひっくり返されるのは、いつも私の方のような気がする。

 一度くらい、返り討ちにしてやりたい。

 と、危ない思考がチラリと顔を出して、すぐさま引っ込んだ。

 慣れないことはするものじゃない。それは今日、嫌というほど身に染みたばかりだ。

「あ、荷物一つ、持ちますよ?」

 両手が塞がっていたのでは不便だろうと右手を差し出すと、一瞬微妙な間が空いた。

 でもすぐに、「それじゃ、よろしく」と、小さい方のバックを渡されたので受け取り持ち手を左肩にかけ、ハンドバックを左手から右にバトンタッチしたところで、ひょいっと課長に取り上げられてしまった。

「え?」

「これは、俺が持つから」

 なんで?

 と、反応する暇もなく、空いた私の右手は課長の左手にがっしりと掴まれる。

 否、繋がれた。

――は……い?

 そのまま、一歩、二歩。

 手を引かれて歩き出しても、イマイチこの状況が飲み込めない。

――手。

 手が、繋がっているんですけど……。

 繋がれて、触れた場所ぜんぶが心臓化したみたいに、ドクドクと拍動を始める。

――う、えええっ!?

 ちょっと、待って。

 これは、どういう状況ですか!?