あはははと、笑顔を浮かべようとするけど、なかなかうまくいかない。

「俺の方こそ、ごめん……」

 囁くようにいって、課長はまだ濡れている私の頬を両手で包み込み、顔を上向かせる。

 まっすぐ注がれる眼差しはとても優しくて、胸の奥がざわざわと波立っていく。

「たぶん、泣かせてしまうだろうって、分かってた」

 親指の腹で涙の伝った後をそっとなぞりながら、課長は優しい囁きを落とす。

「でも、どうしても会わせたかった……」

――大切な人に会わせたかった、と。

 そんなふうに思ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはない。

 素直に、そう思う。

「私で良かったら、いつでも会いに来ますから。あ、でも、あまり騒がしいのも、ダメですよね?」

 頬が、熱い。

 大きな手のひらで、すっぽり包み込まれている両頬に帯びる熱に耐え切れずに、思わず身を引こうとするけど、どうにも動きが取れない。

 そんな私の内心を知ってか知らずか、課長の囁きは微妙に近くなる。

「頻繁に話しかけたりして刺激を与えるのは、意識回復に有効な方法らしい。本の音読とか好きだった歌を聞かせるとか、色々試してはいるんだ」

「そう……なんですか」

 意識回復に有効な方法はよく理解したけど、分からないのはこの状況だ。

 両頬を両手で掴まれて上向かされて、至近距離で視線が外せない。

 更に顔が近づき、ピキリと全身の動きが止まる。