「はじめまして、高橋梓です」
震えそうになる声をどうにか安定させて、言葉を紡ぐ。
「課長には、――東悟さんには、会社で、とてもお世話になっていま……すっ」
感情のたかぶりと同時に、ポロリと一筋、熱いものが頬を滑り落ちてしまい、慌てて指先で拭った。
――この、この、涙腺っ。
今日は、仕事、サボりまくりじゃないかっ。
しっかりしろぉーーーっ!
心の中で叫んでみても、崩壊した涙腺に機能回復の兆しはなく。
これ以上こぼすまいと思えば思うほど、涙はぽろぽろと止めどなくあふれ出す。
涙が出ればおのずと鼻水も出てくるわけで、ずずっ、ずずずずっと、人工呼吸器の単調な音に混じる、鼻をすすりあげるひょうきんな音がとても間抜けに思えて、哀しいやら情けないやら。
「っ……」
今更ながらハンカチを取り出そうと、涙ダダ漏れ状態でハンドバックの中をゴソゴソとまさぐっていたら、「はいよ」と、課長が、テーブルの上に置いてあったボックス・ティッシュを手渡してくれた。
「ありがと……ざいま……」
ありがたく受け取り、涙と鼻水を拭った。
さすがに、この状況で、鼻をチーンとかむだけの傍若無人さを、持ち合わせてはいない。
「……なんか、すみません。今日は私の涙腺、故障しちゃってるみたいで、気にしないでください……」