「本当に、平気か? 俺相手に無理しても、仕方がないぞ?」
「大丈夫ですってば。顔色が悪く見えるんなら、きっとお腹が空いてるせいですよ」
私は、自分のお腹をさすって、腹ペコ部下をアピールする。
実際は気が張っているせいか、そんなに空腹感があるわけじゃない。でも、言葉を口にしたとたんにお腹が空いてくるから、人間の身体って不思議だ。
「腹が……って、そうか、夕飯がまだだったな。そういえば、俺も腹ペコだ」
課長も自分のお腹に手を当てて、クスリと笑う。
「帰りに、何か食べて行く……って、わけにはいかないか」
言葉を濁した課長の落とされた視線をたどれば、その先には、私の胸元が。
――あ……。
思わず足が止まり、胸元をクシャリと隠すように右手で掴んだ。
白いブラウスには、嫌な事件の名残りのように赤い染みが散らばっている。
もちろん血ではなく、ワインの色だ。
でも、他人が見たら、ギョッとすること間違いなしだろう。
「……すみま――」
「すみませんは、ナシな」
口を突いて出た、本日、何度目だろう?
の詫びの言葉は最後まで発することなく、課長に制されてしまった。
「で……」
「でもも、ナーシ」
ピッ! っと、長い人差し指が、私の口を封じる。
……うっ、そ、そんな。
意地悪小僧みたいな目で、見つめないでほしい。