入って来た時と同様に、さっそうとした足取りで病室を出ていく先輩美人女医さんを見送った後、私と課長も病室を後にした。
既に消灯時間を過ぎているのか廊下は薄暗く、ダウンライトのわずかな明かりだけが足元を照らしだしている。
静まり返った長い廊下に、二人の足音だけが虚ろに響き渡った。
課長は、私の歩調に合わせて、ゆっくり隣りを歩いてくれている。
肩が触れ合うほど近くに、いてくれている。
なのに、この一種独特な夜の病院の雰囲気にのまれて、寒いわけでもないのに思わず背筋に震えが走った。
季節はまだ残暑が厳しい八月も後半。
袖のブラウスでも蒸し暑さは感じても、けっして寒さに震えるような時期ではないのに。
――なんだか、怖いな。
夜の病院には、あまりいい記憶がない。
中2の時、交通事故で息を引き取った父の亡骸と対面したのも、こんな蒸し暑い夏の夜の病院だった。
突然襲ってきた、混乱と悲しみと、絶望。
そんな記憶が染みついた場所。
だからかもしれない。こんなふうに、恐怖心がわいてくるのは。
「顔色が悪いな……」
不安な気持ちが表情に出てしまったのか、課長は、歩調を緩めて気づかわしげに顔を覗き込んでくる。