「本当に平気か? つらかったら二、三日入院していってもいいぞ?」

 そのため息を体調の悪さから出たものだと思ったのか、課長は心配げに問いかけてきた。

――とんでもない!

 私は、即座にぶるぶると、頭を振る。

 こんなに静かな場所で二日も三日も一人で時間をもてあましたら、沈みこんだ気持ちは穴を掘り進んで地球の裏側に出てしまう。

 幸い、仕事は猫の手も借りたいほど忙しい。

 こういう時は、仕事に没頭するに限る。

「もう平気です。すっかり熟睡したみたいで、体調はむしろ、いい感じですから」

「なら、いいんだが……」

 私と課長のやり取りを横で見ていた美人女医さんが、ニッコリと、満面の笑顔で会話に加わった。

「あらあら、谷田部君。てっきり彼女さんなのかと思ったら、会社の部下の人なの?」

「だから、最初に『会社の部下』の具合が悪くなったって、言ったと思いますが、水町先輩」

 ニッコリと笑顔で答える課長に、課長の先輩らしい美人女医さんは、からかうように『ん?』と、整った柳眉を釣り上げる。

「そうだったかしら?」

「そうです」

「ふーん。でも、あの、慌てっぷりを見たら誰だって――」

「先輩が当直の日で、ほんと、助かりました。持つべきものは、優秀で融通が利く美人女医な高校の先輩ですね。ありがとうございます。また何かあったら、よろしくお願いします」

 女医さんの言葉をひったくるように、課長が、ニコニコと鉄壁の営業スマイルと弾丸トークで、尚も続きそうな会話に終止符を打つ。

「まあいいわ。その辺のことは、今度酒の(さかな)に、とっくりと聞かせてもらうことにするから。あ、もちろん、君のおごりでね」

「ご随意(ずいい)に」

 ニコニコと晴れやかな笑顔で提案する女医さんに、課長は苦笑交じりの笑顔を向けた。