「はい、大丈夫です……」
女医さんが忍者のはずはないから、テンパるあまり、聞こえていたはずの足音さえ気付かずにいたらしい。
でもあと、十分。
ううん、せめて五分でもいいから、告白する時間が欲しかった。
やっと、告白する決意をしたと思ったとたんに、邪魔が入る。
いったいこれは、何の因果だろう?
――うう。
なんだか、涙がでそう。
この気持ちは口に出さずに一生心に秘めておけっていう、神様だか悪魔だかの啓示だろうか。
思わずシュンとしょげ返っていたら、女医さんは、私の脈をとりながら励ますように笑みを深めた。
「薬の効果はもう切れているから、このまま帰ってもらって大丈夫よ。念のため、明日一日は家で安静にしていること。何かあれば、すぐに受診してくださいね」
そうだったと、薬を飲まされて危機一髪だったのだと嫌な記憶が脳裏をよぎり、下がったテンションは更に下がりまくり地面を掘りにかかった。
「……はい、ありがとうございました」
ぐったりと覇気のない声でお礼を言い、ベットから足を下ろして、ふらりと立ち上がる。
よろけたわけではないけれど、課長が背中に手を添えてくれた。
「ありがとうございます、課長」
気遣ってくれたことにお礼を言い、ふと、自分の中の彼の呼び名が、東悟から課長に逆戻りしていることに気付き、小さく溜息をつく。