お父さんの葬儀すらままならないほどの苛烈な債務の取立てや、お母さんの医療費の工面。
途方に暮れるばかりで、どうすればいいのかすら分からなかったと。
だから、伯父さんの差し伸べてくれた救いの手に一も二もなくすがったと、それしかできなかったのだと、東悟は語った。
長い長い告白の後、東悟の顔に浮かんでいたのは、何かが吹っ切れたような穏やかな微笑。
そんな顔を見ていたら、私の方も何かが吹っ切れそうな気がした。
――ううん、吹っ切らなきゃ、いけないんだ。
ずうっと心の中に降り積もり続けていた、東悟への恋心。
もう、底抜け寸前にまで積もりに積もったこの想いに、終止符を打つ。
そのためには、もうひと押し決定打が必要だ。
この消しようがない恋心は、婚約者候補がいる今の東悟には、迷惑でしかないだろう。
でも今ここで、この気持ちを飲み込んでしまったら、私はここから一歩も進めない。
今までと同じように、何かあるたびに同じ場所を堂々巡りするだけだ。
それならいっそ、はっきりと拒絶された方があきらめがつく。
泣いたって傷ついたって、今のままよりは百万倍マシだ。
ありのままの私の気持ちを、正直に告げよう。
少し意地悪で、でも、優しくて。
いつだって新鮮な驚きとトキメキをくれた、あのころのあなたが、『榊東悟』が、誰よりも大好きだったと。
そして今、私は、目の前にいる『谷田部東悟』を愛している。
榊東悟という過去をその内に秘めた、今の谷田部東悟を、愛している。