飲み過ぎたアルコールの余波でイマイチ血の巡りの良くない頭をフル回転させて、埋もれた記憶の糸を引き出しにかかる。

 昨夜。

 昨夜は確か、谷田部課長の歓迎会があった。

 で、飲み過ぎて、トイレの洗面台の前で腰が立たなくなって……。

 そこまで記憶の糸を辿って、すぅっと血の気が引いた。

『相変わらず、要領の悪いヤツ』

『俺の前で、あまり無理をするな……』

『梓……。俺は、何も理由を告げずに、お前の前から姿を消した男だ。だから、そんなふうに笑いかけてくれるな……』

『すまない――』

『東悟』の声が、囁きが、脳内で連続再生されて、私はますます青ざめた。

 何処まで現実で、何処から夢だったのかが分からない。

 洗面所で谷田部課長にくだを巻いたのは、たぶん現実。

 これは間違いないはず。

 で、酔っぱらった私を、谷田部課長がタクシーで送ってくれたのだと思う。

 だから、タクシーの中でのことも、きっと現実……のような気がする。

 で、でも、その後は?

 手に触れた、『東悟』のサラサラとした髪の感触。

 そして、微かに覚えている、柔らかい唇の感触。

 そっと、自分の唇に触れてみるけど、その証拠なんか残っているわけもなく――。

 分からない。

 どこからどこまでが現実なのか夢なのか、分からないっ!