「昔から君は、何に対しても一生懸命だった。不器用なくせに、こうと決めたら頑固で、ぜったい自分を曲げない――」
一生懸命、不器用、頑固。
ほめられているのか、けなされているのか。
判断がつかない私は、反応に困ってしまう。
「いくら無理だって言っても、ムキになって突き進んでいくんだ」
ゆっくりと、課長の仮面がはがれていく。
谷田部課長という大人な上司の仮面ではなく、私がよく知っていた恋人・榊東悟の素の顔が見えてくる。
「失敗しても失敗しても、絶対あきらめなかった。そんなひたむきさが、俺にはまぶしくて――」
まっすぐ向けられる課長の瞳は、なんだかとても優しい色合いに見えて、私は言葉もなくその声に耳を傾けた。
「誰よりも、愛おしかった……」
『ダレヨリモ、イトオシカッタ』
ストン――と、心の一番奥深い場所に落ちた言葉は、見事に私の琴線に触れた。
もう、これ以上ないってくらい、甘く綺麗な音色を上げて心の隅々に響き渡る。
「な……んで……」
心に共鳴するように、全身が、震えていた。
こみ上げてくる熱い波が、抑えきれない。
今まで、必死になって抑えてきた色々な感情が一気に噴き出して、後から後から涙に姿を変えてあふれ出してくる。
ついでに鼻水もあふれ出してきて、もう、私の顔は『ダム決壊状態』だ。
「な……んで?」
今、この場面で、そんな顔をして、そのセリフを言うのか。
どうしてくれるのよ、この惨状を。
ああ、やだ。
なんで、私、こんなに泣いているんだろう。