「なんですか? 何が六回目なんですか?」
「君が目覚めてから、『すみません』って、頭を下げた回数」
「はい?」
――なんだって?
自分だってかなり挙動不審だったくせに、私の謝罪回数を数えるなんて、そんな余裕をかましていたのかこの人は。
「そういえば、昔、大学の構内で初めて会った時も、そうだったな」
「そ、そうでしたっけ? 気のせいですよ?」
気のせいじゃなく、まさにその通り。
忘れもしない。あれは、六月に入ったばかりの雨上がりの大学の構内。
水たまりですっ転んでいい年をして半べそをかいていた私に、救いの手を差しのべてくれた奇特な先輩。
『すみません』と、コメツキバッタのようにペコペコ頭を下げる私に、彼は言ったのだ。『すみません』じゃなくて、『ありがとう』だろうと。
「ほんと、君は、相変わらず――」
「おバカで間抜けで要領悪い奴です、はい」
私は課長のセリフを横取りして、大きなため息をついた。
そう。
昔、よく言われたっけ。
見事に成長していないんだわ、私って女は。
「……いや、そうじゃない」
課長は、少し遠くを見るように目をすがめて、微かに口の端を上げた。
「……え?」
その声と表情に内包されているものを感じて、ドキンと、鼓動が一際大きな音を上げる。