「すみません……」
いたたまれなくなった私は、重なり合っていた視線を自分から外してうつむいた。
「どうして、君が謝る?」
「その、今回のこともそうですが、課長には、色々とご迷惑をおかけしてしまっているので、申し訳ないなぁと」
さっきの名前呼びの反動か、ことさら他人行儀な話し方になってしまう。
チラリと伺い見れば、課長は、小さな溜息を一つ落とした所だった。
「迷惑だとは思ってない。ただ、今回の事だけは、正直、会ったら『どうしてこんな危険なことやったんだ』と、怒鳴りつけてやろうとは、思っていた」
怒気がにじむような、若干、低くなった声音にギクリとして思わず視線を上げれば、声とは裏腹な楽しげな瞳が私を捉える。
口元に浮かぶのは、微笑。
「は……はい。反省してます、すみません!」
私が複雑な気持ちで再びうつむけば、頭上から、追い打ちをかけるようにクスクス笑いが降り注いでくる。
――ううっ。やっぱり、遊ばれてる。
課長の、いじめっ子!
『額で熱を測って攻撃』もそうだけど、なんか、大人な上司の仮面が外れかけてやしませんか?
「六回目」
「……は?」
――何が、六回目?
私の顔がよほど間抜けだったのだろう。
課長は、こらえきれないように、『プッ』とふきだした。
そのまま、目に涙を浮かべて苦しそうに笑っている。
さすがの私も、少しばかりむっとして問いただした。